意外と身近な不妊問題‼~NPO法人Fine~

はじめに...

突然ですが皆さんは、「不妊」と聞いて自分には関係のないことだと考えてはいませんか?私もつい最近まではそう考えていたのですが、実はとても身近に潜む社会問題だったのです。NPO法人Fine(ファイン)は不妊問題全般を対象に、その改善や解決に取り組んでいる団体です。今回はFine理事長の松本亜樹子さんにインタビューをし、Fineの活動や不妊について、松本さんの思いを聞かせていただきました。

 

 

押久保:活動内容を教えてください。

 

松本さん:活動は多数ありまして、すべてをご紹介するのは難しいので、詳細はぜひウェブサイトをご覧いただきたいのですが(http://j-fine.jp/)、中でも力を入れている活動のひとつとして、ピア・カウンセラーを育てるという事業をしています。「ピア」というのは「同じ立場の仲間」という意味なので、私たちの場合は不妊体験者のことを指しています。つまり、不妊体験者に特化したカウンセラーを育てるという事業で、これは他に類を見ない日本初の試みでした。

 

押久保:どれくらいの期間でカウンセリングを学ぶのですか?

 

松本さん:この養成講座はオンライン受講ができるので、受講自体は年中いつでも受けていただけますし、講座を単発でも受講していただくことは可能です。ただ、資格を取ろうと思われる場合は、最短だと、1年間でライセンス(資格)を取得できます。この養成講座は今年で13年目、つまり現在は第13期生が学んでいます。第1期から第7期までは、毎月1回東京で講義と実技をやっていたので、中には北海道や沖縄に在住の方も毎月1回東京に集まって、年12回受講していらっしゃいました。第8期からは、講義にe-ラーニングを導入し、動画を用いて受講生が都合のいい時間や場所で学べるようになりました。そして、実技のみ年に3回東京で

行うという風に変わりました。

 

押久保:実技は何をするのですか?

 

松本さん:実際にカウンセリングに必要なスキルを体得するために、さまざまなエクササイズやワークをします。たとえば受講者がクライアントとカウンセラーに分かれて、お互いに練習する、などです。不妊体験をした人同士で、不妊をテーマとしたカウンセリングを実施する人と受ける人になって練習します。同じ「不妊」の体験と言っても、人それぞれ違いますし、自分の体験を超えてカウンセラーという立場で相手の話を聴くわけなので、これがけっこう難しく、たいへんな練習と経験が必要になるのです。なので、この実技の時間は重要です。実技の合間には課題もたくさんあるんですよ。

 

押久保:ピア・カウンセリングは不妊体験の共有の場でもあるということですか?

 

松本さん:うーん、…共有の場、というわけではないのですが、結果としてそういう機能の仕方もしているかもしれません。もともとなぜこの不妊ピア・カウンセラー養成講座を始めたかというとFineを立ち上げる時、不妊当事者に対して「不妊に関することでどんなことに困っていますか」といった内容のアンケートを20のウェブサイトに掲載してもらい、不妊体験者の声を聞こうとしたんですね。そしたら、まだ団体にもなっていない、いわばどこの馬の骨とも知れない(笑)私たちに、なんと全国から441人もの人が声を寄せてくれたんです。こんなに集まるなんて思いもよらず、本当にびっくりしたんですけど、そのアンケートを集計したら2つの大きなニーズが見えてきたんです。一つは『カウンセリングの必要性』です。「カウンセリングが必要だと思ったことがありますか」という質問に77%の人がYesと答えたんですね。やっぱりメンタルケアは重要だと再認識しました。もう一つは『医療施設への提言』です。「クリニックや病院に通っていて、病院の先生に言いたいことがあるけど、患者だから言えないと思ったことはありますか」という質問に89%がYesと答えたんです。これも決して看過できない声だと思いました。それで私たちは、これらのニーズをなんとかすることを活動の柱に加えようと考えて、団体を立ち上げる際に立てたのが5つの使命と8つの活動なんです。


5つの使命と8つの活動


インタビュー続き...

松本さん:その中でカウンセラーが必要だとなったときに、そもそも不妊に詳しいカウンセラーが2004年には、あまり存在しなかったんです。今では生殖心理カウンセラーなど、不妊専門の心理カウンセラーがいらっしゃるんですが、当時はほとんどいらっしゃらなかった。それともうひとつ、不妊体験者同士の方が、不妊に関する悩みのお互いの理解がすごく早い。ただし、不妊体験者同士では、心理カウンセリングの知識も技術もないので、カウンセリングはできない。だったら、不妊体験者でカウンセリングができる人がいたらいいなと思い、当事者ニーズを踏まえて、この養成講座を立ち上げたんです。

 

押久保:松本さんは講座で教えるカウンセリングの技術はどこで学んだんですか?

 

松本さん:いえいえ、私は教えていないです。私は仕事でコーチをしていますが、カウンセラーとしては活動していません。私たちFineのスタッフはピア・カウンセラー養成講座の事務局の運営をしているんです。カウンセリング講座の講師は、臨床心理士や生殖医療専門家などのプロの方にお願いしています。今ではこの講座の卒業生のピア・カウンセラーも講師として活躍されています。講師は、立ち上げからずっとご協力くださっている、日本の不妊カウンセリングの第一人者と言われている平山史朗先生と、小倉智子先生のお力をお借りしています。今では他に講師の先生も増えましたが、このお二人にはカリキュラムを作成するところからご一緒いただきました。2004年にテストを繰り返して2005年にようやく始まったといった感じですね。

 

押久保:設立から講座を開催するまでがだいぶ早かったんですね。

 

松本さん:そうですね。最初のニーズが高かったしやりたいと言ってくれる方もいっぱいいたので。でもだからと言ってすぐにできるものでもないし、人の心を扱うのですごいリスクが伴うのでそこは慎重に丁寧にやる必要がある。カリキュラムを作っては身内でテストしたり、練りに練ってから開講しました。

 

 押久保:病院で言いたいことがあっても言えないこととはなんですか?

 

 松本さん:例えば、先生に対して質問したり、次の治療を提案された時にあまり気が進まないとしても、それを正直に言うことはなかなかできない、という声が多いです。ゆっくり患者の話を聴いてくださることばかりではないし、お忙しそうだったりすると「質問したくてもできない」という声ですね。

 

押久保:不妊治療って、保険は利くんですか?

 

松本さん:本格的な治療ではほとんど利かないと思います。

 

押久保:料金が高いにも関わらず、医者に質問もしづらいといった現状をどうお考えですか?

松本さん:そうですね。それは必ずしも医療側だけの問題でもなく、患者も「質問することがわからない」というケースもありますので、Fineの使命の通り、患者も意識と知識を向上させる必要があることでもあるのですが、もっと必要なコミュニケーションがとりやすい環境であったらいいなとは思います。

 

押久保:医師の方に質問するといった点で現在はどうなんですか?

 

松本さん:だいぶ変化してきたとは思いますが、施設(病院)によってのばらつきは大きいように感じます。また、忙しい先生に代わって看護師さんなどがチーム医療で対応するところも増えてきています。

 

押久保:不妊治療の情報の交換や仕入れはどこからですか?

 

松本さん:Fineの場合、誤った情報を載せないために、できるだけ公的なものから引用しています。厚生労働省とか、学会で発表されたデータとか、できるだけフラットな、バイアスのかかっていない情報を取り入れるようにしています。

 

押久保:不妊治療をすることでよく聞く声はどんなことですか?

 

松本さん:そうですね。たくさんありますね。ところでFineは不妊治療を取り扱っているだけじゃなくて、不妊体験者を支援する会なんですね。何が違うと思いますか?

 

押久保:不妊治療の問題というのは「治療においての苦しさ、治療することによって休んだりすると会社などからの目線などが怖い」。それに対して不妊の問題は「子供が欲しいって望んでいるのにどうして自分にはできないのかというような悩みを抱えている」みたいな感じですかね。

 

松本さん:ありがとうございます。大体そんな感じです。そこはうちの団体の大切なところなので、ここで確認をさせていただきました。不妊治療だけを支援しているわけではないというのは、子供ができず悩んでいる人の中には治療を受けるのは嫌という人が結構いますし不妊治療をあきらめて夫婦二人の生活を選択した人や将来不妊になるのではと心配している人、養子縁組などを選択した人など、不妊体験者はさまざまです。それを踏まえて、不妊治療をするうえで聞こえてくる声は、本当にたくさんあります。課題は大きく4つだとFineではとらえています。

1.お金の負担

2.心の負担

3.体の負担

4.時間の負担

この4つの負担があるのですが、中でも最近上がってくるのが、お金と時間の負担です。Fineが実施したアンケートによると、人工授精1回が大体3~10万くらいなんですね。それで出産率は5~10%、体外受精は1回で35万~60万くらいで、高額な場合は1回100万円を超えることもあります。出産率は平均で11.7%で(2015年)。高度な不妊治療をしても、出産率は決して高いとは言えないのが現状です。


【人工授精と体外受精の違い】

まず、人工授精と体外授精では方法が違います。人工授精では、女性の膣内に精子を注入するため卵子を採卵する必要がなく、自然授精に近い形での授精、妊娠をする手法です。それに対し体外授精は、卵子を取り出し体外で受精させてから、受精卵を子宮内に戻す手法です。また、受けることのできる病院にも違いがあります。人工授精は体外受精と違い、妊娠相談に力を入れている産婦人科でも受けることが可能な場合が多いです。体外授精では、多くの手順や高度な技術が必要になるため不妊治療専門のクリニックや大学病院などでしか行われていないません。また、上記したようにかかる費用にも差があるため、人工授精のほうがより身近な存在であるように思えます。


インタビュー続き2...

 

押久保:成功割合的に考えると高値ですよね。

 

松本さん:そうですね。…ところで実は私は、その「成功」とか「結果」という表現は個人的には好きではなくて、それについてはひとしきり語りたいところですが、ここは話がそれることと、時間の関係で割愛しますね(笑)。おそらくおっしゃっている「成功」は妊娠や出産を意味していらっしゃると思いますが、確かに、不妊治療の治療費が高額なので、ボーナスをためて年に2回くらい治療を受けたりだとか、お金を借りて治療を受けたりだとかで、そういったお金の面で困っているという声は非常に多く聞きます。政府から助成金というのが出ていて、一回の体外受精につき15万円まで支給される場合もあります。しかし条件がいくつかあり、たとえば夫婦の合算の年収が730万円未満の場合だけだったり、女性の年齢制限があったりしますので、皆がそれを受けられるわけではありません。当事者は本当に苦しい状態なわけなんです。

 

押久保:年齢制限とは?

 

松本さん:以前はなかったのですが、今は上限が43歳未満になっちゃったんです。それに回数も以前は10回だったのが、6回までに、さらに治療開始年齢が40歳以上の場合は3回までという制限がついたんです。これは結構当事者にはショックな縮小でした。政府としては高齢出産は危険だからここまでだよと線引きをされたのだと思うのですが。そこで浮上してくるもう一つの問題が「時間」、仕事と不妊治療の両立です。この治療は自費治療のためお金がとてもかかるので、一人の収入で賄うのは難しく、女性も働かなくてはならないことがほとんどです。でも治療するためには女性はたくさん病院に通わないといけない。1サイクル(1回の生理周期)に対してどんなに少なくても5・6日、多いと2週間通わないといけないこともあるんです。ですから、そうなるととてもじゃないけれど仕事ができづらいですよね。遅刻や早退を有給休暇で取って、頑張っている人が多いのですが、それでもほとんどの方は不妊治療をカミングアウトしていないですから、休むたびに具合が悪いとか嘘をついて休んだり早退したりしないといけないんですよね。それが当事者の精神的負担につながっています。そんなことを続けてたら今度は気を病んでしまったりなどもあって・・・というような悲痛な声もあります。それで、この間仕事と不妊治療の両立アンケートというのを取ったんですね。そしたら5526件集まったんです。

 

押久保:集計するだけでも大変ですね。

 

松本さん:本当にすごい量ですよね。この数は業界でもこれまでに見たことがないほど桁外れのアンケートの量で、自分たちでもびっくりです!それで、仕事と不妊治療の両立が大変であると答えた人が、前回のアンケートでは92%。今はさらに上がっていて95%くらいになっていて、それだけみんな時間の負担と経済的負担が緊迫しているという事なんです。

 

押久保:それは助成金が減ってしまったことが原因だと?

 

松本さん:もちろん助成金が減ってしまったこともありますが、むろんそれだけではありません。助成金に頼れないから仕事しないといけなくて、でも病院には行かないといけない、治療を優先すると仕事をやめなくてはならなくなってしまう、という悪循環になってしまうんですね。結局アンケートに答えてくれた人の中には働き方を変えざるを得なかった人も多く、そのうち半数くらいは退職を余儀なくさせられてました。ちょうど30・40代の働き盛りの女性たちは、社会でも大事な人材のはず。しかし不妊治療のために退職や休職をしなくてはならないとしたら、これは一企業や一個人の問題にとどまらず、社会的にも大きな損失ではないでしょうか。

 

押久保:企業に呼びかけはしてるんですか?

 

松本さん:企業に制度設定を呼びかけたいのはやまやまですが、企業側もなかなかいっぱいいっぱいで難しいところのようです。この「不妊治療と仕事の両立」は、一企業の努力で何とかなるという範囲をもう超えていると思うんです。政府が頑張っている企業に対して何らかのサポートをする必要があると思っています。最近厚生労働省で動きがあって、仕事と不妊治療の両立についてどんなことを行っているか調査するという会議が開かれているんですね。その会議に委員として参加させていただいてるんですが、企業への調査も実施されています。それですぐに何かが変わるわけではないんだけど、来年度、再来年度には何とかなったらいいのかな、とは思いますけれど…。

 

押久保:企業に呼びかけるとしたら、どういった風に呼びかけますか?

 

松本さん:基本的に、まずは「周知・啓発・情報提供」です。つまり妊娠とか不妊、出産についてのきちんとした情報を全くご存知ない方が多い、というか、これまでの学校教育制度では、ほとんどこれらの情報の周知や教育の機会がないわけなんです。だから男女ともに結婚や出産を先延ばしにする傾向がある。「妊娠・出産は時期が限定されているんだ」という事を知ってもらうこと。それが1つ。もう一つは、出産に対するちゃんとした知識を持たなかったために、今、子どもを持つために大変な思いをしている人がいっぱいいるんだという事を理解していただくという事ですよね。不妊の方の割合、実際に体外受精で生まれてくる赤ちゃんの割合とか具体的にはそういう情報も必要ですね。生まれる子供の数が減り、少子化が年々深刻化する一方、その中で不妊治療によって生まれてくる子どもは年々増加してきている状況ですので。

 

押久保:では不妊に対する認知が増えたと?

 

松本さん:「増えた理由」という点では、不妊治療に対する認知が増えたというよりも、治療を受けられる施設が増えたということだと思います。増えて身近になったので、治療する人が増えた。この2つです。だから、同様に体外受精の数も右肩あがりで上がってきています。

 

押久保:料金とかがもっとリーズナブルだったらもっと受けられる人が増えるかもしれないですね。

 

松本さん:そうですね。たしかに料金が安くなったら、今は経済的理由で体外受精がしたくてもできない若い人も、その治療ができるようになると思います。たとえば、20代のカップルとかだと1回に50、60万円の治療費って、そう簡単には出せないですよね。だから助成金をいただけたとしても、年に1回かせいぜい2回しか体外受精ができないっていうカップルもいるんです。そうするとおのずと妊娠・出産する確率は下がりますよね、そして、年月だけが経ってしまう。そういう人たちにこそたくさん助成があれば、若い方が妊娠できる確率は確実に高いわけだから、もっと早く出産できるのに、と思いますね。そういう助成金の仕組みがあったらいいのにと思います。

 

押久保:若いうちは経済的に回数が少なくて確率が下がり、給料が上がる年齢では身体が対応できず確率が下がると?

松本さん:そう!女性の年齢が上がるにつれて、妊娠・出産率はすごく下がってしまうんですよね。女性は20代後半から妊娠の力が下がってくると言われています。思ったより若いと感じるのではないですか?だからこそ、出産適齢期をちゃんと知る必要があるわけです。若い人にこそ知ってもらうことが重要で、早いうちに知っておけば自分が望むライフプランが組みやすいじゃないですか。あとは管理職の方々への周知、教育が必要不可欠だと思っています。今の管理職の年齢の方々は、性教育というと、ほぼほぼ性病と避妊くらいしか受けていない場合が多いので、こういった「妊娠・出産・不妊」のきちんとした仕組みとかを知らない方がほとんどなのではと思います。そうすると、不妊治療は身近に感じないし、自分の部下が不妊治療しているかもしれないというのを想像もしないわけなんです。だから「不妊」ときいても、「ウチにはそういう人いませんよ」とおっしゃる方が多い。そうなると、部下としてはますます「実は今不妊治療をしていて・・・」とは言いだしづらいですよね。まずはそういったきちんとした知識を身につけてもらう教育の機会が必要、制度はそのあとですよね。どれも必要、周知・啓発・情報提供、そして制度、風土。不妊治療に限らず、妊娠・出産、子育て、闘病、介護、すべて「仕事と両立」できる社会になる必要があると思っています。「仕事をしながら、他の何かもできる」という社会環境にしないといけないなと思います。仕事だけではなく、プライベートもちゃんと大切にできる。そうじゃないと日本がそんなに楽しい国じゃなくなっちゃう。そんな気がするんですよね。

 

押久保:不妊に対して理解のある企業と提携してほかの企業に働きかけるなどは行ったりしてるんですか?

 

松本さん:それについては、まだアクションしていないところはいくつかあります。Fineの調査では、実際に不妊治療に関して制度を設けている企業も、ごく少数ですがあって、実は、数社の企業にそういう働きかけをしたらお断りされてしまったんです。あまり大っぴらには出したくないと言うことで。またある企業の人事の方に言われたのは「妊娠は企業のリスクなので、それを企業がサポートする必要はありません」と。結局のところ企業としては、従業員の妊娠・出産はリスクだと考えているのだということに、愕然としました。たしかに経営する側に立ってみたらそれだけ急に人員が減ってしまうわけですから、そりゃそうですよね。そのお立場もお気持ちもわかります。でも、多くの企業がそれを言ってしまったらこの少子化の時代ってどうなっていくのかなって。労働人口減少が課題となっている昨今、女性も結婚・出産後も働くケースが増えている、「女性活躍」が勧められていますが、一方で少子化も大きな課題となっています。仕事を一生懸命頑張ってきたために、結婚や出産の時期が遅れて、子どもを持ちたくても不妊という壁にぶつかって困っている女性がたくさんいます。思い切って不妊治療に踏み切ってみると、今度は仕事との両立がままならず、退職か転職せざるを得ない状況にも追い込まれてしまう。そこをサポートすることはおろか、出産はリスクだと言われたら…。当事者はどうしたらいいのかなって、日本ってどうなっちゃうんだろうなって、思ってしまいますよね。

 

押久保:社員の幸せを考えるべきだと?

 

松本さん:そうですね。やはり企業としては三方よしを考えていただきたいなと思うんです。顧客、社員、世間、そのいずれも幸せになる。それって大切なことだと思うんですね。でもこのご時世、企業もカツカツでやってるのもよくわかります。人は少ないし、景気も良くない。だからそこは政府のサポートが必要となってくる。不妊治療と仕事の両立というのは、今の政府の3つの方針にはまっていて、少子化対策、女性活躍、そして働き方改革。でもそこに政府のサポートが全くないのはやはり大きな課題だと思っています。

 

押久保:しかし、一部の会社には理解もあって制度もあるということですね。

 

松本さん:はい、Fineの調査では6%未満ですが、不妊治療をサポートする何らかの制度があるという結果が出ています。

 

押久保:社会全体的に見たら消極的ということですか?

 

松本さん:そうですね。その数字を見る限りでは、やっぱり消極的ですね。

 

押久保:もっと認知すべきだと?

 

松本さん:そうですね~。広がるといいですね。

 

押久保:どういったことを知ってもらいたいですか?

 

松本さん:いちばんは、不妊や不妊治療を受けることは、そんなに珍しいことではないっていうことですね。Fineの大切な理念(https://j-fine.jp/about/principle.html)の中に「不妊を特別視することのない社会の創造」があります。不妊は特別なことではないということを、多くの方に知っていただけるといいなと思います。そしてまず誰よりも本人が理解しないと、コンプレックスを持ってしまう。つまり、本人が1番自分自身を特別視しちゃうんですね。「不妊の自分はダメだ」とか「女性として生まれてきたのに、子どもを産めないなんて失格だ」とか、そういう罪悪感とか劣等感とか自己否定をしてしまう。それはしんどいことなんですよね。

 

押久保:今のお話からすると結構、女性が原因に思われがちなのですが実際割合的にはどちらが多いんですか?

 

松本さん:男性と女性でちょうど半々くらいと言われています。また、実は最近まではあまり知られていなかったのですが、男性の精子も年齢とともに衰えるという発表もありました。男性不妊が最近話題になってますけど、耳にしたことありますか? まず精子の数がすごく減ってるし、運動率や奇形率などの数値も以前とくらべて悪くなっているらしいんです。だから男性不妊も増えているそうです。

 

押久保:男性にも治療っていうのはあるんですか?

 

松本さん:ある程度はあると思います。たとえば無精子症というと、精子が全くない、妊娠の可能性がゼロのような印象がありますが、実は精巣にはある場合もあって、そういうケースでは、手術によって精巣から採取するなどの治療が可能です。いずれにしても、男性も、精液検査等は早くやっておかれた方がいいと思います。

 

濱田:男性側が原因の不妊なのにその両親が不妊に関する知識が少なくて、「不妊問題だから女性側に問題がある」という風に誤解されてしまう、といった記事を見たことがあるのですが、そういった場合どのように対応すればいいのですか?

 

 松本さん:そういったことってよくあるんです。でも、妻から、例えば義父母に対して「あなたの息子が原因ですよ」とはなかなか言いづらいですよね。だからその場合だったら本人(夫)が言うのがベストなんです。でも本人も言いづらいだろうから、それなら手紙を送ったとか、メールを送ったとかっていう話は聞きます。どっちにしても言わないままでいると、場合によっては女性側が責められてしまうこともあるし、そこはサポートしたり、頑張っていただいて、ぜひご本人から言っていただきたいですね。

 

濱田:ネットで目にしたのですが、運動や食事の改善によって不妊が改善されるといったこともあるのですか?

 

松本さん:うーん、それはとても難しいご質問です。YesともいえるしNoでもある。たしかに生活習慣を改善して、その後妊娠する方もいるでしょうが、その因果関係はわからないですよね。ただ、自分でできる努力として、体を健康な状態に持って行く、たとえば必要な栄養を取るとか、規則正しい生活をするとか、運動や体作りというのはできると思います。男性も女性もちょっと運動不足だったり、特に下半身を使わない、長時間座りっぱなしだと、血流が滞ってしまうので、それは良くないと言われています。不妊に限らずそれはきっと何にでもよくなさそうですよね。他にも、男性だったらサウナに長く入り過ぎないとか。そういった細かな生活習慣に気を付けようということはたくさんあると思います。だから、男性も女性もそういう意味では妊娠しやすい体作りはできると言えるかもしれません。ただ、いずれも妊娠・出産を保証するものではないと思います。

 

濱田:不妊改善ではなく妊娠しやすい体を作れるということだったんですね。

 

松本さん:そうですね。表現は難しいですね。たとえば「不妊改善」という情報があったら、不妊に悩む方は飛びついてしまう人もいるかもしれないので、私たちは絶対にそんなあやふやなことは言わないように気を付けてます。それこそインターネットの情報は玉石混交ですので、私は講演などの時にもネットの情報には振り回されないよう、取捨選択をする目を養ってくださいとお伝えしています。

 

押久保:最後に何か一言あればお願いします。

 

松本さん:若い方に不妊や不妊治療の現状をお話しできるのは良いことなので、今回お声掛けいただいて、とてもうれしかったです。不妊に限らず、妊娠・出産の知識は、男女ともに若いうちから知っていてほしい情報の一つなので、「まだまだ他人事で遠い先のことだなー」と思わずに、知識の一つとして頭の隅っこに入れといてほしいなと思います。また、「不妊がすごく気になってるけど、病院に行くのが怖い」という方は、検査だけでも受けられることをおすすめしたいです。実は検査を受けるだけでも不妊の原因が解消されるケースもあるんですよ。検査に行ったらすぐに治療が始まるわけでもなく、そこでいったん考えればいいことですから、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよという事を伝えたいですね。そして、いま実際に不妊や不妊治療で悩んでいる方だったら、ぜひ、仲間を見つけてほしい。一人で悩みを抱えて、孤立しないでもらいたいと思います。周囲に話せる人がいないようだったら、Fineにはピア・カウンセラーがいますし、仲間もたくさんいます。ぜひ一度アクセスしてみてください、とお伝えしたいです。



取材を終えて...

 

今回の取材で驚いたことは、自分にはまだ関係がないと思っていたのに、実は「若い世代の人たちにこそ知っていてほしい」というお話だったことです。不妊についてはあまり知識がなかったのですが、勝手なイメージで30、40代くらいになってからの話だと思っていたので、そういった先入観から自分には関係ないと思ってしまうのは良くないと学びました。また、不妊体験者はナーバスになりがちだと、松本さんはおっしゃっていましたが、松本さん自身とても明るい方で、インタビュー中もとても明るい雰囲気でした。また機会があれば、ぜひお話を伺いたいと思いました。

インタビュアー:押久保翔也・濱田爽暉                        記事担当:濱田爽暉

関連リンク Fine ホームページ http://j-fine.jp/


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地下アイドルライブの運営や企業の取材など自分たちの好きなことをワガママに企画し行動する。 考える力を養い、プロデュース力を鍛える学生中心の団体。

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